平成29年度:京都土産エコ包み学習会 レポートその1

[目指せ!京都土産エコ包みプロジェクト①] 
[平成29年7月5日取材]

夏本番の京都。この日、地下鉄丸太町駅から徒歩5分ほどにある町家を活用した「風伝館*」1階のコミュニティスペースにて、めざせ!京都土産エコ包みプロジェクト(以下、エコ包みプロジェクト)が主催する「エコ包み学習会」が開催されました。第1回目のテーマは、「包装材の知識と環境配慮について」。講師は、日本写真印刷株式会社 総務部環境安全グループ長の麻埜(あさの) 豊彦さん。麻埜さんは、2002年から同社の環境施策、とりわけ廃棄物ゼロエミッションの推進に携わってこられ、エコ包みプロジェクトが昨年行った「京都観光土産エコ包みコンテスト」の審査員も務められました。学習会の参加者は20代~70代の14名。容器包装にまつわる法律や環境にやさしい素材などについて学ぶと共に、普段はなかなか聞くことができない印刷の基本的な知識について熱心に学びました。
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廃棄物って面白い!?

学習会の冒頭、会社概要の紹介と織り交ぜて、麻埜さんが環境管理に携わることになった経緯についてのお話がありました。麻埜さんは、大阪支社の営業部で10年間仕事に邁進するも、大学で化学を専攻していたこともあり、2002年から環境管理推進部に転属になりました。正直、戸惑いを隠せなかったそうですが、ある時、島津製作所で廃棄物管理に携わる先輩から、「麻埜さん、廃棄物って面白いでしょ!」と声を掛けられ目から鱗。廃棄物が排出される背景にはどんな課題があるのか、その本質を知り、解決策を講じることで、それまでは廃棄物であったものが「資源」や「エネルギー」として活用できることに気付きます。こうして、京都本社が一丸となって廃棄物ゼロエミッションを推進し、2005年には廃棄物の再生・再資源化を99.5%達成、それ以降も、国内グループ全体を通して高い目標を達成し続けています。このような経験から、今では企業の環境管理のエキスパートとして、講演や後進の育成に尽力されています。

環境に配慮することで、企業価値が高まる

続いて、容器包装の役割や法律についての説明がありました。容器包装の役割とは、中身を守り、内容物を正確に伝え、安全に運搬ができることなどが挙げられます。加えて、食品表示法や資源有効利用促進法(10業種69品目)で義務付けられている、容器包装の識別マークがきちんと付けられているかどうかも問われます。その上で、容器包装の環境対応ポイントは、製造過程における合理化や費用削減が図れるだけでなく、消費者にとっても、安い、軽い、使いやすい、無駄がない、捨てやすいなどのメリットがあるかどうか、更には、企業の社会的評価が高まるものであるかが充分に検討されるべきです。例えば、企業が毎年作っているカレンダー。一昔前は、紙を金具で留めるデザインが一般的でしたが、今では紙だけの単一素材(再生紙の使用も増加)のデザインが主流になるなど、環境意識の向上と求められるデザイン性とは結び付いています。また、以前はプラスチック製のケースに入った卓上カレンダーが多かったのですが、そんな中、麻埜さんが裏を向けるとスタンドにもなる紙製のケースを提案したところ、とても人気があったと仰います。このように、容器包装の機能や性能、強度はそのままに、使いやすく、リユース・リサイクルのしやすさまでを設計段階から考えることで、容器包装の適正化が実現するのです。

非木材紙は、本当に環境にやさしいのか?

紙は、多くの容器包装に使用されていますが、木材パルプから作られる紙の他、非木材紙や再生紙など、環境にやさしいとされている紙が多く存在します。非木材紙とは、針葉樹や広葉樹などから取り出した木材パルプの代替原料として、樹木以外の植物繊維から作られた紙のことで、過剰な森林伐採を減らし、森林資源の保全に一定の役割を果たしています。しかし、非木材紙の全てが本当に環境にやさしいのかどうか、疑問があると麻埜さんは仰います。非木材紙で有名なケナフは、成長が早いため、大量に栽培・収穫するのに適していますが、それらの工程には多大なエネルギーが必要であり、栽培に使用される化学肥料の問題や、土地が痩せ、他の植物を育てられなくなるなど、環境負荷の大きさが指摘されています。現在、日本で使用されるケナフは、その多くが東南アジアを中心に海外で栽培されたもので、輸入によって原料供給が支えられている点も考えなければなりません。一方、バガス(サトウキビの搾りかす)やワラ、ヨシなどの植物繊維を活用した紙の開発も進んではいますが、どうしても製造コストがかかるため、まだまだ一般的な素材とは言えません(国産の原料が使われている例もありますが、特にバガスは輸入された原料の使用が多いようです)。非木材紙と表示されていても、その原料は様々であり、環境に配慮されたものであるかどうかは、栽培、収穫、原料化(チップ化、パルプ化)、輸送(輸入)エネルギーなどを総合的に判断しないといけないことを学びました。

知っておきたい森林認証

もう一点、参加者の関心を集めたテーマが、森林認証制度についてでした。木材パルプと聞くと、環境に配慮されていない素材ではないか、と思ってしまいますが、適切に管理された森林から供給される森林資源(間伐材など)を、適切な流通経路で林産物として加工・利用する仕組みが構築されており、これらの工程を第三者が認証することで、林産物の付加価値が上がり、林業の質を高めることにもつながっています。森林認証には、森林管理協議会が認証するFSC森林認証や、国際的な基準が定められているPEFC森林認証プログラムなどがあり、認証を得た製品にはそれぞれの環境ラベルが付与されています。これらの環境ラベルを見かけましたら、是非手に取って、生産者の声に耳を傾けてみて下さいね。

気を付けたいVOC(揮発性有機化合物)について

印刷工程における環境配慮については、印刷方式によって環境負荷が異なることや、環境にやさしい印刷インキについて学びました。印刷方式には、主にオフセット印刷とグラビア印刷があり、大ロットに対応できるオフセット輪転機やグラビア輪転機では、色を一色刷るごとに乾燥させる必要があるため、乾燥工程がない印刷方式と比べ、消費エネルギーは大きいと言います。また、印刷方式や印刷媒体(紙や合成紙、フィルムプラスチックなど)によって使用するインキが異なるため、有機溶剤の使用量やそれに伴うVOCの排出量も異なることが詳しく紹介されました。VOCなどの発生を抑えるため、大豆油などの植物油由来のインキが広く普及していること、インキに含有されるVOCをゼロにしたNon-VOCインキや水洗可能なW2インキ、地産地消を促すことにもつながる米ぬかインキなども開発が進んでおり、近年使用例も増えているそうです。ここで参加者から、家庭用プリンターから出るVOCは大丈夫なのか、という質問がありました。インクカートリッジ(トナー)の交換の際に手に着いたりすることがありますが、麻埜さんによると、人の肌に触れない方が良いのは事実、但し、インキが乾燥していれば触っても人体に影響はないとの説明がありました。
学習会では、この他にも再生紙やバイオマスフィルム(サトウキビなどの植物由来の原料を用いた、再生可能プラスチック)、生分解性フィルム(微生物によって自然的な副産物《炭酸ガス、メタン、水、バイオマスなど》に分解されるプラスチック)について考える時間もあり、多岐に渡る内容に、参加者は大いに刺激を受けました。
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最後に、学習会で学んだことを踏まえて、実際のお土産物を手に取りながら、参加者同士で自由に意見を述べ合いました。参加者から好評だったものは、お煎餅の老舗として知られる京都・田丸弥さんの、点字用紙を包装紙として再利用した商品(後日、田丸弥さんのホームページを拝見しますと、この商品はお客様へのおもてなしの気持ちを伝える粗品とのこと)でした。見た目や手触りの柔らかさや、田丸弥さんのささやかながらも確かな社会貢献の姿勢が伝わる、とてもセンスの良いものでした。
奥深い容器包装の世界。買い手の心を動かすエコ包みとは、作り手の商品への誠実さが滲みだす、そんな温かくて素朴な感性から生まれるものなのかも知れません。
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