講演要旨です。平成28年3月25日開催!井上恭介氏講演『地域で資源とお金がまわる里山資本主義的経営』

井上恭介氏講演要旨報告『地域で資源とお金がまわる里山資本主義的経営』

平成27年度 京都市ごみ減量推進会議 企業向けごみ減量実践講座

地域で資源とお金がまわる里山資本主義的経営 ≪講演要旨≫

日時 2016年3月25日19時から21時

場所 キャンパスプラザ京都4階第4会議室(京都市下京区)

講師 井上恭介さん NHKエンタープライズ,エクゼクティブプロデューサー

里山資本主義から里海資本論

≪増やすことより,減らすことの大切さ≫

 まず高知県のデータを見てもらいたい。国際収支ならぬ「県際収支」を示している。都道府県単位でモノの移出入の収支を表したもので,ある研究では高知県の赤字が全国最大であるという。
 ただ,農産物や魚介類については黒字である。しかし加工食品の赤字は,一次産品の黒字を上回っている。つまり安く原料を県外に売り,県外で加工したものを高く買っているといった図式がある。さらに顕著なのは,石油,電気,ガスなどエネルギーの購入による赤字。この分野の赤字が大きく,「県経済の自立など無理」と思わせている。「高知県には油田がないしなぁ~」と嘆く人もいるが,自分たちの背後に広大な山林があり,そこに資源があることを忘れている。
 収支を考える際,収入を増やすことばかりに目がいくが,どうやって支出を減らすか考える必要があるのではないか。

講師の佐々木恭介さん

≪ミクロの視点で見える希望の芽≫

 次の例として,広島県での取材で最も早く出会った,和田芳治さんを紹介したい。マクロ的に見れば,限界集落の最たる地域に住まわれている。確かに今は田舎でもトイレにウォシュレットがあるなど,都市と同じ暮らしがある。どこに住んでいても,都市からモノが供給され,それを購入して暮らす「消費者」として位置付けられる。しかし昭和30年代まで,この地域はエネルギーの大半を自給していた。もともと中国地方の山間地はたたら製鉄が盛んだった。そのため山の木を計画的に利用するノウハウがあった。
 和田さんの家のすぐ裏は山で,そこで木を伐り燃料とする。エコストーブを開発され,煮炊きに利用されている。ご夫婦2人の1か月の光熱費が2,000円程度だという。自らエネルギーを創出し,支出を抑えることができれば,現金収入が少ない地域でも暮らしていける。限界集落や消滅可能性集落などと言われるが,その暮らしをミクロの視点で見れば,十分暮らしていける可能性がある。

≪効率だけで得られない人のつながり≫

 3年間の広島放送局勤務の後,東京に戻った。週に一度,エコストーブを利用している。釜もネットオークションですぐに見つかった。先の和田さんのような暮らしは「田舎だからできるのでしょ。都市では無理」と言われることがある。私の場合,徒歩で通勤すると,途中の公園で多くの枝を拾うことができる。
 効率を考えると「業」としてエネルギーを創り出す人がいて,そこからエネルギーを購入した方が良いように思える。たしかに落ちた枝を拾って歩くことは,効率としては良くない。しかしマンションのガレージで,ロケットストーブを用いて煮炊きをしていると,人が集まってくる。会話が生まれる。人づきあいが始まる。それによって,「効率」では得られないものが得られる。用事があるとき,「子どもを預かって…」とお願いする人まで得られた。
 もちろん,ロケットストーブで都市の暮らしで使うエネルギーをすべて賄うことなどできない。しかし可能性があるのにやらない,あきらめるのは悔しい。100対0を,0対100にするのは難しいし,その必要はない。80対20や90対10になれば良いと思う。

講師の佐々木恭介さん

≪最先端のヒントは,なつかしさの中にある≫

 新しい炊飯器のコマーシャルなどを見ると,「薪で炊いたような炊き上がり」などの宣伝文句がある。しかし実際に薪で炊いたご飯の方がおいしい。経済の頭打ちと高齢化が進展し,成熟し洗練された社会が求められている。しかし,最新技術のモデルは,「便利」になる前の社会にある。焼鳥屋でもおいしい店は備長炭を使っている。未来は機械文明に彩られたものではなく,なつかしさの中にこそあると思える。
 一生懸命長時間働き,最新技術の製品を買うより,早めに仕事を切り上げて,少ない支出で暮らすことを考えた方が良いのではないだろうか。

≪ごみと思われていたものが,財を生む宝に≫

 岡山県真庭市の銘建工業,中島浩一郎さんの例を紹介する。銘建工業の場合,製材所から出る木くずは,ごみでしかなかった。バブルがはじけ,事業が苦しくなったとき,発想を変えた。銀行は事業拡大する案件を進めてきたが,苦しいときほど固定観念ではなく,なぜ苦しくうまくいかないのか考える必要があると,真庭塾で地域の経営者らと学んだことを思い起こした。「昔はもっと木をうまく使っていたのではないか」と,10億円を投資して,木くずを使った発電所を作った。後に,「この時の選択がなければ,今日の当社はなかった」と述懐されている。
 それまで木くずは産廃として,年間2億5千万円かけて処理していた。木くず発電により,外部から購入する電気は大幅に減り,夜は売電もできる。寝ている間にお金が儲かるわけだ。FIT(余剰電力固定価格買取制度)ができる前で,年間5千万円ほどの売電収入があったというから,FIT施行後はもっと多くの収入があることだろう。
 ただし,木くずは発電所で使いきれないほどあった。そのため残りの木くずで木質ペレットを作った。これを市役所や市内の小学校などが利用してくれるようになった。庁舎を改修し,暖房だけでなく冷房までペレットを用いてできるようになった。さらに市内でハウス栽培を営む農家も,ハウス内の暖房にペレットを使うようになった。

≪地域でお金がまわることの意味≫

 このことにより,外部から燃料を買わなくて済むようになり,「お金が地域でまわる」ようになった。同じ千円の支出でも遠い外国に持っていかれるのではなく,地元にとどまる。そのお金がまた地元の店で使われ循環する。このことがとても大きい。「働けど,働けど暮らし楽にならず」から逃れることができる。「限界集落だ」「消滅都市だ」など,マクロの視点で俯瞰しているだけでは希望の芽は見えない。
 こういった成功を受けて,真庭市は市民の電力を賄うことができるバイオ発電所を建設した。発電設備容量は1万kw級で「大きすぎないか」といった声もあった。しかしそれまでに同社の木くず発電所をはじめ,運営ノウハウがあったので,問題なく稼働している。また「これを動かすだけの木材が集まるのか」といった声もあったが,地元の人が軽トラックで間伐材などを持ち込んでいる。その人たちも地元の人であり,支払ったお金は大半が地元で使われる。
 こうなると「ごみ」だと思ったものが資源に見える。中には1日に5回も間伐材などを持ち込む人もいる。それだけ持ち込むと結構なお金になる。お金になると実感が生まれる。その人にとって,山の見え方も違ってきたことだろう。

≪CLTが開く林業の可能性≫

 発電所では熱も発生する。この熱を使わないのはもったいない。銘建工業は工業団地にCLT(Cross Laminated Timber,集成材)の製造工場を建て,CLT用の木材乾燥に,この熱を利用するようにした。CLTは低中層建築だけでなく,最近ヨーロッパで24階建ての高層建築に使われた例もある。日本でも,新国立競技場でも用いられる予定で,建築基準法の改定などでもあり,今後需要拡大が期待されている。そのCLTを日本でいち早く注目し,製造に取り組んだのが銘建工業である。
 よく「日本の木より,海外産の方が安い」と言われるが,例えばフィンランドやオーストリアの林業従事者の方が,日本より賃金が高い。オーストリアの場合,伐採や製材の機材開発など,国内でお金がまわっている。植林や間伐などの仕事に資格制度もあり,資格取得者は社会から尊敬を受けている。オーストリアでは,今や観光の次に国の経済を支えているのが林業関係製品の輸出である。またペレットをエネルギーとして活用することで,ロシアからの天然ガス輸入も減らせて,エネルギー外交面でも役に立っている。
 日本は世界第3位の木材消費国である。地下資源は少ないが,林産物は再生可能な地上資源であり,国内に豊富にある。早く発想を変える必要があるだろう。

≪地域の自然を守る人たちの誇らしさ≫

 よく地方に行くと,「ここには何もありません」という人がいる。ビルの立ち並んだ都会の光景以外,何でもある。日本の高度経済成長時代,自然か経済かどちらを取るかと言われたら「経済」を取った。結果,瀬戸内海を埋め,生活排水や工業排水を垂れ流し,遊泳禁止にして人を自然から遠ざけた。
 一神教では,神が人をはじめすべての生き物をつくり,その中で一番偉いのが人間で,自然や生き物の支配する存在として位置づけられている。その考えなら,自然を保護するには,アンタッチャブルで人が全く触れないのが良いと思うことだろう。しかし実際には人が関わることで保たれ,回復する自然もある。瀬戸内海の場合,「おいしいカキが食べたい」との思いが漁師の気持ちを動かし,海をきれいにする活動を進めていった。カキ筏も,海の浄化に役立つが,アマモという植物が少なくなると,カキの収穫が大幅に減ることがわかり,まずアマモの(海中)草原を復活させようとした。漁師たちがアマモの種をまき,アマモの草原が戻ると,見られなくなった魚たちが戻ってきた。アマモの種をまく漁師たちが誇らしい表情をしている。
 カブトガニもアマモの草原で脱皮している。「カブトガニがいても,経済的なメリットなどあるのか」という人もいる。そうではなく「カブトガニもいるほど,生態系が豊か」ということは,多くの生き物がいて,水質も良い。となれば,経済的に価値のある魚介類もいるだろうし,人間が受ける恩恵も大きくなる。
 人が利用し,関わることで,良好な自然が保たれ,人も自然から多くの恩恵を受けることができる,こういった「里山,里海」の発想が世界から注目され,その実践に対して尊敬を受けている。そのうえ地球温暖化の防止にもつながっている。

以下は質問(一部記載)

Q バイオ燃料が注目され,各地で木質ペレット生産工場が建てられているが,その多くが破たんしている。真庭市でうまくいったのはなぜか。
A 各地の事例の中には,間伐材を,重油を使って乾燥させているものがあった。そのようなことをすればコストが合わない。真庭の銘建工業の場合,製材で出た木くずからスタートした。木くずは原価ゼロ。もともと処理に多くの金をかけていた厄介者だった。そのうえ乾燥させる必要がない。また,まず発電に使い,それで余った分を用いてペレットの製造を始めた。もともとペレットの製造が目的ではなく,原料となるものが大量にあったことが成功の理由だろう。

Q CLT(集成材)が開発され,雑多な木でも売れるようになり,逆に建材用に立派な太い木を育てていた林業関係者から「手間をかけた木の価格が下がった。困っている」という声を聞いた。実際どうなのか。
A 手間をかけて立派な木材を育ててらっしゃる人たちは本当に尊敬する。ただし,「CLTのために価格が下がった。」という人には,「きちんと取材して発言してほしい」と切に思う。実際にそのようになっていないと断言できる。

以上

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